一癖ある奴でございます」
と、部下が云った。飯田は微笑しながらそれを聞きながして入った。部下もその後からいっしょに往った。狭い玄関口には大きな色の白い僧が坐っていた。
「今晩は御厄介にあずかります」
飯田は鷹揚に云った。僧は軽薄な笑いを顔に浮べていた。
「お勤め御苦労に存じます、見らるるとおりの荒寺で、茶もろくろくおあげすることもできませんが、それで宜《よろ》しければ、ゆっくり御逗留なさいますように」
「なに、粮米の用意もある、今晩一晩御厄介になれば、明日はすぐ出発します」
そのうちに部下が厨《くりや》の方から手桶に水を入れて持って来たので、飯田は草鞋《わらじ》を解いてそれで足を洗ってあがると、僧は後から来て次の室《へや》へ案内した。塵の溜った狭い室であった。
「甚だ穢《きたな》い処で、お気の毒でございます」
こう云って僧が出て往くと、飯田は刀を除り、陣笠を脱いで、だんぶくろを穿いた体を畳の上に置いた。部下は炊事にかかったのかあがって来なかった。
軽い跫音がして何人《たれ》か入って来た。今の僧にしては跫音が違っているなと思って飯田は顔をあげた。壮い女が茶を持って来たところであ
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