た。其所の客は皆若い男で、散髪屋の職人とでも云つた風であつた。客はお幸ちやんを中心にして笑ひ声を立てた。其所には棚に据ゑた煽風機の騒々しい風があつた。
「おい、ソーダ水の代りを持つて来い、」
入口の左側で三人のテーブルの隣から威張つたやうなものの云ひ方をした。其所には樺色の杉板に背を凭せるやうにして二人の客が話してゐた。一人は髪も頬髭もむしやむしや生えた童顔の太つた男で一人は背のひよろ長い神経質らしい顔をして長い髪の毛を綺麗に撫でつけた若い男であつた。
浪花節の若衆の前に立つてゐたお菊ちやんが二人の前に来た。童顔の男は麦藁の入つてゐる空になつたコップを[#「コップを」はママ]弾くやうにしてみせた。
「これ、これ、」
「あ、二つ、ね、」
「うん、」
お菊さんは狭い人の背の間を潜つて暖簾の口へ行つた。
「ソーダ水二ちやう、」
童顔の男は急に椅子から立つた。
「帰りませう、」
背のひよろ長い連の男がそれを見て腰をあげた。
「いや、帰るんぢやない、便所だ、便所だ、」
童顔の男は左の手を出して押し止めるやうにしてから、開けてある硝子戸の端に体を当て当て外へ出た。軒下に垂らした白いカー
前へ
次へ
全21ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング