やないか、人に貰つた物だ、」
 男はまた立つて押し入の方へ行つて、黄色な紙にくるんだ小さな箱のやうな物を持つて来た。
「貰ひ物で失敬だが、構はないなら持つておいで、」
 男はかう云つてそれを女の前へ置いて坐つた。
「そんな物を戴いてはすみません、」
「好いぢやないか、あんたが構はないなら取つて行つたら好いだらう、」
「でもあんまりですわ、」
 不意に縁側に足音が起つて男と女の声がした。お幸ちやんは誰も来るものはないと聞いてゐたのでびつくりして途方に暮れた。
「誰かゐるやうぢやなくて、」
「誰がゐるもんかね、この室には誰も来ないから大丈夫だよ、」
「でも、何だか話をしてゐたやうですわ、」
「そんなことがあるもんか、さあ、お出でよ、」
 同時に障子が開いて年取つた男と若い小間使のやうな白粉をこてこて塗つた女が入つて来た。
「誰もゐないぢやないか、誰がゐるもんかね、」
「でも、蒲団があるぢやなくつて、」
「蒲団はさつき客に出して、そのままになつてゐるんだ、」
 お幸ちやんはどうして好いか判らないのできよときよとして坐つてゐたが、自分達の姿が見えないのか二人は何も云はない。
「お坐りよ、」
 
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