薄赤い液の入つた罎と、小さなコツプを二つ持つて来て、坐りながらそれを二つのコツプに注いで一つをお幸ちやんの前へと置いた。
「珍しい物だよ、まだ日本には無いよ、」
 男はかう云つてから自分の前にコツプを持つてぐつと一息に飲んだ。
「アルコールも何も入つてゐないから、水を飲むと同じだよ、」
 お幸ちやんはあんなに云つてくれるのを飲まないのも悪いと思つた。
「では戴きます、」
「飲んで御覧、なんでもないよ、」
 お幸ちやんは行儀好くコツプを取つて口に持つて行つた。それは少し甘味のある軟かなほんのりと香のある飲物であつた。
「どうだね、ちよいと好い物だらう、」
「本当に好い匂ですこと、」
 お幸ちやんは半分ばかり飲んでから下に置いた。
「お幸ちやんが、折角遊びに来てくれたんだから、昼だと写真でも取つてあげるが、夜ぢやはつきり写らない、写真は今度にして、今晩は、」
 男はさう云つてちよと考へ込んだ。
「もう、どうぞ、店をそのままにしてありますから、直ぐ失礼します、」
「さうだ、あれが好い、一つ友達から土産に貰つた化粧箱がある、あれをあげよう、」
「もう、どうぞ、何も沢山でございます、」
「好いぢ
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