言つた言葉をそのまゝ用ひて料理を二皿とビールを註文すると、女中が出て行つたので、昨夜綺麗な女中の坐つてゐたと思はれる所を見て、此所な女中も矢張り受持ちがあつて、その客の帰らない内は他の座敷へは行かないだらうか、旨くあの女中が来てくれると良いがなどゝ思つてゐると足音がして女中が這入つて来た。それは顔のしやくんだ円髷の女で昨夜見た女中の一人であつた。それはビールとコツプを乗せた盆を持つてゐた。
 秀夫はその女中にビールの酌をして貰ひながら、琵琶を弾いてゐた綺麗な女中のことを訊かうと思つたが、それは極まりがわるくて訊けなかつた。
「すぐお料理が出来ますさかい、……あんた、これから、ちよい/\お出やす、綺麗なお友達連れなはつてな、」
 何処の国の言葉とも判らない、この町のかうした女の用ゐる言葉を使ひながら、初心な客をてれさゝないやうにと話しを仕向けた。秀夫はそれがために気がのび/″\して来たので、
「昨夜、此所で琵琶を弾いてゐた綺麗な姉さんがありましたね、」
 と言ふと女中はにやりとしたがすぐ考へ直したやうに言つた。
「今、来てゐやはりましたやろ、あの人だす、上手でおますやろ、」
「さうですか
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