とをやってるが、知ってやってるかな」
老人は物におびえるような声で言った。喬生はその意味が判らなかったが、女のことがあるのでその忠告でないかと思ってきまりが悪かった。
「さあ、なんだろう、私には判らないが」
「判らないことがあるものか、お前さんは、大変なことをやってる、気が注《つ》かないことはないだろう」
女のことにしては老人の顔色や言葉がそれとそぐわなかった。
「なんだね」
「なんだもないものだ、お前さんは、おっかない骸骨と抱きあってるじゃないか」
「骸骨、骸骨って、あれかね」
「笑いごとじゃないよ、お前さん、おっかない骸骨と、何をしようというのだ、お前さんは、邪鬼に魅いられてるのだよ」
喬生も薄気味悪くなってきた。
「ほんとうかね」
「嘘を言って何になる、わしはお前さんが、毎晩のようにへんなことを言うから、初めは寝言だろうと思ってたが、それでも不思議だから、昨夜、あの壁の破れから覗いて見たのだ、お前さんは、邪鬼に生命を取られようとしてるのだ」
「観燈の晩に知りあって、それから毎晩泊りにきてたが、邪鬼だろうか」
「邪鬼も邪鬼、大変な邪鬼だ」
「奉化の者で、お父さんは州判をしてた
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