ていた衣服《きもの》のはしが見えていた。老人は驚いて住職を呼んできた。住職は棺桶の蓋を取った。喬生はまだ生きているような若い女の屍と抱きあうようにして死んでいた。
「この女は奉化州判の符君の女《むすめ》でございますが、今から十二年前、十七の時に亡くなりましたので、かりにここへ置いてありましたが、その後、符君の処では、家をあげて北へ移りましたから、そのままになっておりました」
 住職はそれから女と喬生を西門の外へ葬ったが、その後、雨曇りの日とか月の黒《くら》い晩とかには、牡丹燈を点《つ》けた少女を連れた喬生と麗卿の姿が見えて、それを見た者は重い病気になった。土地の者は懼《おそ》れ戦《おのの》いて、玄妙観へ行って魏法師にこの怪事を祓《はら》うてくれと頼んだ。
「わしの符※[#「竹かんむり/(金+祿のつくり)」、第3水準1−89−79]《かじふだ》は、事が起らん前《さき》なら効があるが、こうなってはなんにもならん、四明山に鉄冠《てっかん》道人という偉い方がおられるから、その方に頼むがいい」
 土地の者は魏法師の言葉に従うて、藤葛《ふじかずら》を攀《よ》じ、渓《たに》を越えて四明山へ行った。四
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