いて斉襄《せいじょう》※[#「歹+且」、第3水準1−86−38]《そ》す。禍を降し妖をなし、※[#「宀/火」、第4水準2−79−59]《さい》を興し薜《せつ》をなす。是を以て九天邪を斬るの使を設け、十地悪を罰するの司を列ね、魑魅魍魎《ちみもうりょう》をして以てその奸を容るる無く、夜叉《やしゃ》羅刹《らせつ》をして、その暴を肆《ほしいまま》にするを得ざらしむ。矧《いわ》んやこの清平の世、坦蕩《たんとう》の時においておや。而るに形躯《けいく》を変幻し、草木に依附《いふ》し、天|陰《くも》り雨|湿《うるお》うの夜、月落ち参《しん》横たわるの晨《あした》、梁《うつばり》に嘯《うそぶ》いて声あり。その室を窺えども睹《み》ることなし、蠅営狗苟《ようえいくこう》、羊狠狼貪《ようこんろうたん》、疾《はや》きこと飃風《ひょうふう》の如く、烈しきこと猛火の若《ごと》し。喬家の子生きて猶お悟らず、死すとも何ぞ恤《うれ》えん。符氏の女死して尚お貪婬《たんいん》なり、生ける時知るべし。況んや金蓮の怪誕なる、明器を仮りて以て矯誣《きょうふ》し、世を惑わし民を誣《し》い、条に違い法を犯す。狐|綏々《すいすい》として蕩たることあり、鶉《うずら》奔々《ほんほん》として良なし、悪貫已に盈《み》つ。罪名宥さず。陥人の坑、今より填《み》ち満ち、迷魂の陣、此より打開す。双明の燈を焼毀《しょうき》し、九幽の獄に押赴《おうふ》す。
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 武士達は泣き叫ぶ邪鬼を曳いて行った。そして、武士達が見えなくなると、道人も起ちあがって童子を伴れて行ってしまった。
 翌日土地の者は、道人に昨日の礼を言おうと思って、四明山頂の草庵へ行ったが、草庵は空になって何人もいなかった。土地の者は道人の行方を訊こうと思って玄妙観へ行ってみると、魏法師は口が利けなくなっていた。



底本:「中国の怪談(一)」河出文庫、河出書房新社
   1987(昭和62)年5月6日初版発行
底本の親本:「支那怪談全集」桃源社
   1970(昭和45)年11月30日発行
入力:Hiroshi_O
校正:小林繁雄、門田裕志
2003年9月17日作成
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