きた。
「お妃さまのお召しじゃ、こっちへ来い」
道度は家来に随いて車の傍へ往った。車は止まっていた。
「その枕をこちらへ」
家来は道度の手から枕を取って、それを車の窓際へさし出した。枕は王妃の手に渡った。
「この枕は、どうしてその方が持ってる」
道度は地べたに頭をつけてから、その枕を手に入れた訳を話した。話しているうちに王妃は泣きだした。
「これは確かに、私の女《むすめ》の持っていたものだ、では、女から貰ったのか」
王妃は止めどもなく泣いた。
道度は王妃の車に随いて秦の王宮へ往った。王宮では道度の言葉に疑いをはさんで、人をやって塚を発掘さし、中の柩を開けて調べさした。二十三年を経た女の死骸は、腐りもせずにそのままになっていた。死骸と一緒に入れた物を詮議した。他の物は皆そのままであったが、黄金の枕のみはなかった。
後で死人の身体を検《あらた》めた。それには情交宛若たるものがあった。
秦の王妃は道度の事情を諒解してしまった。
「これこそ真箇《ほんとう》の婿だ、女《むすめ》もまた神だ、沒くなって二十三年も経って、生きた人と交往《こうおう》していた」
そこで王妃は道度を※[#
前へ
次へ
全8ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング