菊になってしまった。その高さは人位で十あまりの花が咲いたが、皆拳よりも大きかった。馬はびっくりして黄英に知らした。黄英は急いで往って、菊を抜いて地べたに置いて、
「なぜこんなにまで酔うのです」
と言って、衣をきせ、馬を伴れて帰って往ったが、
「見てはいけないですよ」
と言った。朝になって往ってみると陶は畦のへりに寝ていた。馬はそこで二人が菊の精だということを悟ったのでますます二人を敬い愛した。
そして陶は自分の姿を露わしてからは、ますます酒をほしいままに飲むようになって、いつも自分から手紙を出して曾を招《よ》んだ。で、二人は親しい友達となった。
二月十五日の花朝《かちょう》の日のことであった。曾が二人の僕に一甕《ひとかめ》の薬浸酒《やくしんしゅ》を舁《かつ》がしてきたので、二人はそれを飲みつくすことにして飲んだが、甕の酒はもうなくなりかけたのに、二人はなおまだ酔わなかった。馬はそこでそっと一瓶の酒を入れてやった。二人はまたそれを飲んでしまったが、曾は酔ってつかれたので、僕が負って帰って往った。
陶は地べたに寝てまた菊となったが、馬は見て慣れているので驚かなかった。型の如く菊を
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