ので売らずにぐずぐずしているうちに十日あまり経ったので、葛布の価はますますさがり、一方旅館の滞在費用もかさんで来たので、ますます煩悶《はんもん》した。旅館の主人が見かねて、
「置けば置くほど損をするから、今のうちに売ってしまって、何か他の工夫をしたらいいじゃないかね。」
 といって勧めた。王成もその言葉に従って売ったが、十余両の損をした。そして手ぶらになって翌朝は早く起きて帰ろうと思って、金入《かねいれ》を啓《あ》けて見ると入れてあった金が亡くなっていた。驚いて旅館の主人に告げたが、主人もどうすることもできなかった。同宿していた男が、
「訴えて主人から払わしたらいいだろう。」
 といって勧めた。王成は歎息して、
「これは運命だ。主人の知ったことじゃない。」
 といって従わなかった。主人はそれを聞いて王成を徳として五両の金を贈って帰そうとした。しかし王成は老婆にあわす顔がないので帰ってもいけない。じっとしていられないので外へ出たり室の中にいたりして煩悶していた。ある日外出して鶉《うずら》を闘わして賭《かけ》をしている者を見た。その賭には一賭に数千金をかける者があった。鶉の価を訊《き》いて
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