仕方《しかた》なしに一泊して朝になってみると雨はやんでいたが、路のぬかりがひどくて、旅人達は脛《すね》まで入って往来していた。王成はそれにも弱って待っていると、午《ひる》になって路がやっと乾いた。そこで出発しようとしていると断《き》れていた雲がまた合って、また大雨になった。王成は仕方なしにまた一晩泊って翌日出発した。そして北京に近くなって人の噂を聞くと、葛布の価《ね》があがったというので、心のうちに喜んで北京へ入って旅館へいった。旅館の主人は王成の荷物を見て、
「しまったなあ。二、三日早かったら、うんともうけるところだったが。」
 といって惜《お》しんだ。それは南方との交通が始まったばかりの時で、葛布が来てもたくさん来なかったうえに、市中の富豪で買う者がたくさんあったので、価が非常にあがって平生と較べて三倍ほどになっていた。それが王成の着く前日になってたくさん着荷があったので、価が急にさがって、後から葛布を持って来た者は皆失望していた。旅館の主人はそのことを王成に話した。王成は失望してふさぎこんでしまった。
 翌日になって葛布の着荷がますます多く、価もますますさがった。王成は利益がない
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