お前さんのお祖父《じい》さんに可愛がられてたが、お祖父さんが没《な》くなったので、私もとうとう身を隠してしまった。それがここを通って釵をおとして、お前さんの手に入ったというのも、天命じゃないかね。」
王成も祖父に狐妻のあったということを聞いていたので、老婆の言葉を信用した。
「そうですよ、天命ですよ、では、これから私の家へいってくれませんか。」
というと老婆はそのまま随《つ》いて来た。王成はそこで細君を呼んであわした。細君の頭髪は蓬のように乱れて、顔色は青いうえに薄黒みを帯びていた。老婆はそれを見て、
「あァあァ、王柬之の子孫がこんなにまで貧乏になったのか。」
と歎息してふりかえった。そこに敗れた竈《かまど》はあったが、火を焚《た》いた痕《あと》も見えなかった。老婆はいった。
「こんなことで、どうして生きてゆかれる。」
そこで細君は細かに貧乏の状態を話して泣きじゃくりした。老婆は彼《か》の釵《かんざし》を細君にやって、
「それを質に入れてお米を買うがいい。」
といいつけて、帰りしたくをして、
「三日したらまた来るよ。」
といった。王成はそれをおし留《とど》めた。
「どうか家
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