の釵《かんざし》が一つ光っていた。王成が拾って視ると細かな文字を鐫《ほ》ってあった。それは儀賓府造《ぎひんふぞう》という文字であった。王成の祖父は衡府《こうふ》儀賓、すなわち衡王の婿となっていたので、家に残っている品物の中にその印のある物が多かった。そこで王成は釵を持ってためらっていると、一人の老婆が来て、
「もしか、この辺《あたり》に釵は落ちていやしなかったかね。」
といった。王成は貧乏はしても頑固な正直者であったから、すぐ出して渡した。
「これですか。」
老婆はひどく喜んだ。「お前さんは正直者だ。感心な男だ、お蔭でたすかったよ。これは幾等《いくら》もしないものだが、先の夫の形見《かたみ》でね。」
王成は儀賓府造の印のある品物を遺《のこ》した夫という人の素性が知りたかった。
「あなたの夫というのは、どうした方です。」
と問うた。すると老婆が答えた。
「もとの儀賓の王柬之《おうかんし》だよ。」
王成は驚いていった。
「それは私のお祖父さんですよ。どうしてあなたに遇ったのでしょう。」
老婆もまた驚いていった。
「ではお前さんは、王柬之の孫だね。私は狐仙《こせん》だよ。百年前、
前へ
次へ
全15ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング