て真二つになった。
「これは、どうも、麁相《そそう》して面目ない」と、甚六はきまり悪そうな顔をした。
茶釜の傍から変な眼つきをして甚六の顔を見ていた主翁は、
「麁相ではありません、貴君の傍にいなさる小供さんが、貴君が皿を持とうとすると、手で叩き落しておりますよ、お伴《つれ》さんではありませんか」
「ヘッ」と、甚六は恐ろしそうにして己の右側と左側とを見た。何人も傍にはいなかった。彼は目をきょときょとさした。
「それそれ、あなたの右側に、十二三になる女の小供がおりますよ、お伴さんではありませんか」と、主翁が云った。
甚六の頭に血がのぼった。彼は顔を蒼くして顫えていた。
「おや、おや、小女《こむすめ》がいなくなった、何処へ往ったろう」
と、主翁《ていしゅ》がまた云った。
甚六は主翁の方を見た。主翁は茶を汲んで来て甚六の前へ出した。
「けたいなことがあるものじゃ、まあ茶でも飲んで、気を落ちつけさっしゃるが好い」
甚六はその茶をもらって飲んだ。そして、やっと人心地が注《つ》いたがもう冷麦を喫う気にはなれなかった。
「……冷麦代も皿代も払うが、もう冷麦は喫いたくない、茶をも一つもらおうか
前へ
次へ
全8ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング