ってしまってばったりと聞えなくなった。そして、夜が明けて裏へ往って見ると小女は凍えて死んでいた。それでも甚六はさほどに驚かなかった。驚かないのみか却て厄介が無くなったと思って喜んだに違いない。其処で甚六は小女の死骸を野原へ持って往って、捨てるように埋めて来たが、間もなく小女が竊《ぬす》んだと云っていた品物が出て来た。これにはさすがの甚六も気がとがめたであろうと思われる。
 その時はもう年末《くれ》におしつまっていたが、間もなく年が明けて正月の元日が来た。甚六の家では屠蘇を汲み雑煮を祝おうとしたところで、持仏堂の中が怪しい音を立てて鳴りだした。甚六と甚六の女房は驚いてそのほうへ顔をやると、堂の中から何人《たれ》かが投げつけるように位牌や瓦盃《かわらけ》が飛んで来た。
 その時をはじめとして、甚六の家には奇怪なことがありだした。そして、フジの姿が夢とも現《うつつ》ともなく甚六夫婦の目に見えた。これには甚六も恐れをなして、村にいる山伏を頼んで祈祷をしてもらおうとすると、須弥壇が動きだしたり、榊立や山伏の錫杖が何人が投げるともなしに家の外へ飛んででたりするので、山伏も恐れて逃げて往った。
 こ
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