−12−81]学無識《ぼうがくむしき》の徒は、とても自分達の相手になってくれる女でないと思って、今更ながら己れの愚しさを悟るという有様であった。
 ある年のこと、それは夏の十六日の夜のことであった。県中の名士が鴛湖《えんこ》の中にある凌虚閣《りょうきょかく》へ集まって、涼を取りながら詩酒の宴を催した。空には赤い銅盤のような月が出ていた。愛卿もその席へ呼ばれて、皆といっしょに筆を執ったがまたたくまに四首の詩が出来た。
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画閣《がかく》東頭《とうとう》涼を納《い》る
紅蓮《こうれん》は白蓮《はくれん》の香《かぐわ》しきに似《し》かず
一|輪《りん》の明月《めいげつ》天水《てんみず》の如し
何《いず》れの処《ところ》か簫《しょう》を吹いて鳳凰《ほうおう》を引く

月は天辺《てんぺん》に出でて水は湖に在り
微瀾《びらん》倒《さかしま》に浸す玉浮図《ぎょくふと》
簾《すだれ》を掀《あ》げて姐娥《そが》と共に語らんと欲す
肯《あえ》て霓裳《げいしょう》一|曲《きょく》を数えんや無《いな》や

手に弄《ろう》す双頭《そうとう》茉莉《まつり》の枝
曲終って覚えず鬢雲《びんうん》の
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