趙はその朝、旅装を調えて無錫へ往った。そして、宋という姓の家を尋ねたところがすぐ知れた。趙は半信半疑で往ってみた。妊娠してから二十ヶ月目に生れたという男の子がひいひい泣いていた。それは生まれ落ちるときから輟《や》めずに泣いているものであった。
 趙は主人に逢って、自分のきた事情を話し、主人の承諾を得て産室へ入って往った。今まで泣いていた男の子は、趙を見るなり泣くことをやめてにっと笑った。
 宋家ではその子に羅生《らせい》という名をつけた。趙はその日から宋家の親属《しんぞく》となって、往来餽遺《おうらいきい》、音問を絶たなかった。



底本:「中国の怪談(一)」河出文庫、河出書房新社
   1987(昭和62)年5月6日初版発行
底本の親本:「支那怪談全集」桃源社
   1970(昭和45)年発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:Hiroshi_O
校正:noriko saito
2004年12月14日作成
青空文庫作成ファイル:
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