阿芳の怨霊
田中貢太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)阿芳《およし》の怨霊《おんりょう》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)其の時|背後《うしろ》の方から
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由平《よしへい》は我にかえってからしまったと思った。由平は怯《おく》れた自分の心を叱って、再び身を躍らそうとした。と、其の時|背後《うしろ》の方から数人の話声が聞こえて来た。由平は無意識に林の中へ身を隠した。間もなく由平の前に三人の人影が現われた。それは宇津江《うづえ》帰りらしい村の壮佼《わかいしゅ》であった。壮佼たちは何か面白そうに話しながら通りすぎた。由平はほっとした。
其処《そこ》は愛知県|渥美郡《あつみぐん》泉村《いずみむら》江此間《えこま》の海岸であった。由平は其の村の油屋|九平《くへい》の娘の阿芳と心中を企てたのであったが、泳ぎを知っていたので夢中で泳いだものらしく、我にかえった時には、自分一人だけが波打際に身を横たえていた。由平は阿芳だけ殺してはすまないと思って、三度海の方へ歩いて往ったが、黝《くろ》ずんだ海の色を見ると急に怖気《おじけ》がついた。由平はじ
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