ていた。
 孫の体は榻に寝てから三日になったが、息がかすかになって今にも滅入りそうになった。家の者はひどく驚いて人を豪商の許へやって、そこで魂を招かしてくれと頼んだので、阿宝の父親は笑って言った。
「ふだん往復したことのない者が、なんで私の家へ魂を遺してゆこう」
 孫の家の者はそれでも是非招かしてくれと頼んだので、阿宝の父親もやっと承諾した。そこで巫《かんなぎ》が孫の着ふるしの着物と草で織った敷物をもって豪商へ往った。阿宝はその事情を聞いてひどく駭《おどろ》き、他へ往かさずにすぐに自分の室へあげて魂を招かした。そして巫がその法式を行って帰り、孫の家の門口まで往ったところで、榻の上の孫の体がうめきだしたが、間もなく醒めた。そこで阿宝の室の鏡台はじめ什具《じゅうぐ》の色合や名前を訊いてみると、すこしも違わなかった。阿宝はそのことを伝え聞いてますます駭くと共に、陰《ひそか》にその情の深いのに感じた。
 孫は既に病牀を離れたが、阿宝のことが忘れられないので、時とするとものを忘れた人のようになって考えこむことがあった。そしていつも阿宝の身辺に注意していて、もう一度逢ってみたいと思っていた。四月八
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