方きっての美人であったから、豪家の少年達は争うて鴈《がん》の結納《ゆいのう》を持ちこんで婿になろうとしたが、どれもこれも女の父親の気にいらなかった。その時、孫は細君を亡くして独身でいたが、悪戯者の一人がまたそれに目をつけて、
「君は細君を亡くしているが、阿宝に結婚を申しこんではどうだね」
 と言った。孫はふとその気になって自分の境遇のことも考えずに、とうとう媒《なこうど》をする婆さんに頼んで結婚を申しこんだ。
 阿宝の父親は孫の名を聞いたが、あまり貧乏だからと思って躊躇した。そこで媒の婆さんが父親の室《へや》を出て帰ろうとしていると、阿宝が出てきた。婆さんここぞとおもって、孫生にたのまれてあなたに結婚を申しこんできたところだと言った。阿宝も孫の噂を聞いて知っていたので冗談にしてしまった。
「あの枝指をとってくれるなら、結婚してもいいわ」
 婆さんは帰ってきて孫に話した。孫は本気にして、
「そんなことはなんでもないさ」
 と言って、婆さんの帰った後で、斧を出してきて、その枝指を断《き》ってしまった。ひどい痛みが脳天に突きぬけるようになると共に、血がどくどくと出て、ほとんど瀕死の状態になっ
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