と阿繊はいった。
「そんなことは心配ありませんよ。」
といって三郎を伴《つ》れていった。そこに倉があって三十石にあまる粟が儲《たくわ》えてあった。それがあるなら家賃を払ってもまだ剰《あま》りがあった。三郎は喜んだ。そこで屋主の謝に粟をとってくれといった。謝は困らすつもりで、
「こんな物をもらっても仕方がない。金をもらおう。」
といった。繊はためいきしていった。
「それが私の罪障ですから。」
そこで阿繊は謝のことを話した。三郎は怒って訴えようとした。陸氏はそれをとめて、粟を村の者に別け、その金をあつめて謝に払って、車で二人を送り帰した。
三郎は家へ帰って事実を両親に知らし、兄の山と別居した。阿繊は自分の金を出して、たくさんの倉を建てさせた。家の中には僅かばかりの蓄えもないので皆が怪しんでいたが、一年あまりしてみると倉の中は一ぱいになっていた。そこで幾年もたたないうちに大金持ちになった。そして、山は貧乏に苦しんでいた。阿繊は両親を自分の家へ呼んで養い、兄の山にも金や粟をやってたすけたが、それがなれて常のこととなった。三郎は喜んでいった。
「お前は旧悪を思わないという方だよ。」
阿
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