った。嫂は笑っていった。
「どうも別嬪《べっぴん》らしいのですね。」
 玉はいった。
「子供がどうして佳《い》い悪いがわかるものかね。たとえよかったにしても、秦には及ばないよ。秦の方がだめになったら、その時にしても晩《おそ》くはないよ。」
 ※[#「王+玉」、第3水準1−87−90]は黙って兄夫婦の前をさがった。三、四日して玉は途《みち》を歩いていた。一人の女が涙を流しながら向うへいっていた。玉は馬を停《と》めてそっと見た。それはこの世に住んでいる人にはほとんど較べる者のない美しい女であった。玉は従僕に訊かした。
「あなたはどうした方です。」
 女はいった。
「私はもと甘家の弟さんと許婚《いいなずけ》になっていたものですが、家が貧しくって、遠くへ徒《うつ》ったものですから、とうとう音信がなくなりました、それが今度帰って聞きますと、甘の方では、私との約束を敗って、他と許婚なさるそうですから、甘のお兄さんの所へいって、私を置いてもらおうと思ってゆくところです。」
 玉は驚き喜びをしていった。
「甘の兄は、私だ。父が約束したことは知らないが、私の家はすぐそこだから、一緒に来てください。相談し
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