死んだようになった。玉は気の毒でたまらなかった。そこで急いで剣を抽《ぬ》いて出ていって切りつけた。剣は怪しい男の股《あし》に中って一方の股が落ちた。怪しい男は悲鳴をあげて逃げていった。
 玉は女を抱きかかえて室の中へ伴《つ》れて来た。女の顔色は土のようになっていた。見ると襟《えり》から袖にかけてべっとりと血がついていた。その指を験《しら》べると右の拇《おやゆび》が断《き》れていた。玉は帛《きぬ》を引き裂いてそれをくるんでやった。女は気がまわって来て始めて呻《うめ》きながらいった。
「あぶない所を助けていただきまして、どうしてお礼をしたらいいでしょう。」
 玉は覘《のぞ》いていた時から、心の中でこんな女を弟の細君にしてやりたいと思っていたので、そこで弟と結婚してもらいたいと言った。女はいった。
「かたわ者は、人の奥さんになることができませんから、べつに弟さんにお世話をしましょう。」
 玉はそこでそれは何という女であるかといってその姓を訊いてみた。
「何という方でしょう。」
 女はいった。
「秦《しん》というのです。」
 玉《ぎょく》はそこで衾《やぐ》を展《の》べて暫く女をやすまし、自分は
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