てしまつた。
京子は並んで寝てゐた夫に揺り起されてゐた。夫の何か云ふ声が遠くの方でするやうに思ひながらやつと眼を覚ました。
「何うした、大変うなされてゐるぢやないか、夢を見たんぢやないか、」
京子は眼を開けた。青い電燈の光が自分の肩に懸けた夫の手を照らしてゐた。京子は首から顔にかけて重い痛みが残つてゐた。
「夢でも見たのかね、うなされてゐたよ、」
「どうも夢ではないんですよ、赤ん坊を抱きに行つて、ひどい目にあつたんですよ、奥様に髪を掴まれて顔を滅茶滅茶に摘ままれたり、旦那は旦那で跳び起きて来て私の咽喉を締めつけるんですもの、」
夫は笑ひ出した。
「矢張り体のせいだ、体が悪いと深刻な夢を見るもんだ、」
「夢ぢやないんですよ、本当ですよ、顔を滅茶滅茶に摘ままれたんだから、どうかなつてゐやしない、未だに顔から頸の廻りが痛いんですよ、」
京子は顔に手をやつて、顔一面を撫でた後ちに、夫に見せるやうにした。
「どうもなるもんかね、なつてゐやしないよ、夢ぢやないか」
「でも本当よ、昨夜の家へ又行つて赤ん坊を抱かうとすると、やられたんですよ、何んだか口惜しいんです、」
「それが、矢張り体の具
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