は出来て三月位になるらしい人形のやうな子供であつた。呼吸器に故障のあるらしい夫の寝息が、ぐうぐうと蛙の鳴き声のやうに聞えてゐた。
「男の子であらうか、女の子であらうか、」
京子は無邪気な赤ん坊の寝姿を眺めてゐたが、抱きたくなつたので坐つたままで両手を差し出した。赤ん坊の巻き蒲団にその手が掛つた。細君の眼が開いた。細君の両手は京子の右の手首に蛇のやうにからみついた。
「何をするんです、あなたは何をするんです、」
京子はその権幕に驚いて手を振り放さうとしたが放れなかつた。
「早く起きて下さい、早く、早く、昨夜の奴が来て、坊やを何うかしようと云ふんですよ、早く、」
細君は起きあがつて来て京子を横に突き仆して片手をその髪にかけた。細君は又叫んだ。
「早く起きて下さい、昨夜の奴が赤ん坊を取りに来たんですよ。早く、早く、」
夫は跳び起きた。そして夫の手は京子の頸筋にかかつた。
「よし、此奴か、此奴が昨夜の奴か、」
京子の咽喉は塞がつて来た。細君の意地悪い手は京子の頬や額のあたりにあたつた。京子は苦しみもがいた。
赤ん坊の泣き声が聞えた。京子はその泣声をすこし耳に入れたままで分らなくなつ
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