て××に来た。K――で三年級だつたが、××中学ではその時三年に欠員が無くて二年に入れられた。××でも矢張新聞配達をしてゐたと話した。
 甲田は不図《ふと》思出した事があつた。そして訊いてみた。『××中学に、与田《よだ》といふ先生がゐませんか?』
『与田? ゐます、ゐます。数学の教師でせう? 彼奴《あいつ》あ随分点が辛いですな。君はどうして知つてるんです?』
『先《せん》に○○の中学にゐたんです。そして××へ追払はれたんです。僕等がストライキを遣つて。』
『あ、それぢや君も中学出ですか? 師範ぢやないんですね。』
 甲田は此時また、此学生の無遠慮な友達扱ひを不愉快に感じた。甲田は二年前に○○の中学を卒業して、高等学校に入る積りで東京に出たが、入学試験がも少しで始まるといふ時に、父が急病で死んで帰つて来た。それからは色々母と争つたり、ひとり悶へても見たが、どうしても東京に出ることを許されぬ。面白くないから、毎日馬に乗つて遊んでゐるうちに、自分の一生なんか何《ど》うでも可《い》いやうに思つて来た。そのうちに村の学校に欠員が出来ると、縁つづきの村長が母と一緒になつて勧めるので、当分のうちといふ
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