ど》うしました? 何か面白い事がありますか?』と言ひ乍ら、立つて來てその葉書を見て、
『やア、英語が書いてあるな。』と言つた。
 甲田はそれを皆《みんな》に見せた。そして旅の學生に金を呉れてやつた事を話した。○○市へ行くと言つて出て行つて、密《こつそ》り木賃宿へ泊つて行つた事も話した。終ひに斯う言つた。
『矢張氣が咎《とが》めたと見えますね。だから送中で腹が痛くて困難を極めたなんて、好い加減な嘘を言つて、何處までもあの日のうちに○○に着いたやうに見せかけたんですよ。』
『然し、これから二度と逢ふ人でもないのに、何うしてこの葉書なんか寄越したんでせう?』と田邊校長は言つた。そして、『何《ど》ういふ積りかな。』と首を傾《かし》げて考へる風をした。
 葉書を持つてゐた福富は、この時『日附は昨日の午前六時にしてありますが、昨日の午前六時なら丁度|此村《こゝ》から立つて行つた時間ぢやありませんか。そして消印《スタンプ》は今朝の五時から七時迄としてありますよ。矢張今朝○○を立つ時書いたんでせうね。』と言つた。
 すると此木田が突然大きい聲をして笑ひ出した。
『甲田さんも隨分|好事《ものずき》な事を
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