無題
石川啄木

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【テキスト中に現れる記号について】

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(例)一切の新思想を根絶[#「一切の新思想を根絶」に傍点]
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 幸徳等所謂無政府共産主義者の公判開始は近く四五日の後に迫り來れり。事件が事件なるだけに、思慮ある國民の多數は、皆特別の意味を以て此公判の結果に注目し居ることなるべし。予も其の一人なり、而して予は未だ此の事件の内容を詳細に聞知するの機會を有せざりしと雖も、檢事の嘗て發表したる所及び巷間の風説にして誤りなくんば、其企畫や啻に全く辯護の餘地なきのみならず國民としては、餘りにも破倫無道の擧たり、又學者としての立場より客觀的に觀るも殆んど常識を失したる狂暴の沙汰たり、何等の同情あるべからず。たゞ茲に此の事件に關聯して予のひそかに憂ふること二三あり。其一は政府が今夏幸徳等の事件の發覺以來俄かに驚くべき熱心を表して其警察力を文藝界、思想界に活用したることなり。其措置一時は政府の意が殆ど
 △一切の新思想を根絶[#「一切の新思想を根絶」に傍点] せしむるやにあるやを疑はしめたりき。或は事實に於ては僅々十指に滿たざる書籍
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