の發賣を禁止されたるに過ぎざれども、一般文學者學者等凡て思想的著述家の蒙りたる不安の程度より言へば正に爾か言ふを得べし。これ或は政府の從來社會教育の上に表したる方針を一貫す。由來道徳は政治文學哲學等と同じく其根諦は或は不變なるべしと雖ども、其形式内容共に各時代によりて多少相違あるものなり。其の之を考へずして苟くも在來の道徳に抵觸するものは一切禁遏せんとするが如きは無謀も甚だし。近五十年間に於ける吾邦の進歩は、吾社會の有らゆる方面の面目を一新したり。表面の面目の一新せられたるは又其内部の種々の事情も共に一新せられたるを證す。然るに今政府の措置にして此一新せられたる社會に對して數十年若くは數百年前の道徳箇條を其儘強用せしめむとするの態あるは何ぞや。是政府自ら明治文明の重大なる文明史的意義を否定するにも似たらずや。斯く言へばとて予は決して今日の青年の思想的傾向を是認する者に非ず、唯彼等の今日あるは長き因縁と深き事情とに因するを知るのみ、之を匡正し誘掖するには、自から他に途あるべし。さらでだに其の父兄の手によりて經營せられたる明治の新社會が既に完成の域に近く、今後彼等青年が自發的に活動すべき餘
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