奈太政府の労働大臣さ。』
『然うですか。怎も慣れませんもので。』
これで皆が思はず笑つたので、流石に長野も恥かしくなつたと見えて、顔を真赤にしたが、今度は自分の袂を曳いて、「陸軍ケイホウのケイホウは怎う書きませう。」と小声で訊ねる、「警報さ」と書いて見せると、「然うですか、怎も有難う。」と云つたが、「何だい、何だい?」と竹山が云ふので、「陸軍ケイホウです。」と答へると、「ケイホウは刑罰の刑に法律の法だぜ。」と云ふ。俺もハツとしたが、長野は「然うですか。」と云つたきり、俺には何とも云はず、顔を赤くした儘、其教へられた通り書いて居た。すると竹山は、以後《これから》毎日東京や札幌の新聞を読めと長野に云つて、
『鎌田といふ大臣のあるか無いかは理髪店《とこや》の亭主だつて知つてるぢやないか。東京新聞を読んで居れば、刻下の問題の何であるかが解るし、翌日の議会の日程に上る法律案などは札幌小樽の新聞の電報に載つてるし、毎日新聞さへ読んでれば電報の訳せん事がない筈なんだ。昨晩だつて君、九時頃に来た電報の「北海道官有林附与問題」といふのを、君が「不用問題」と書いたつて、工場の小僧共が笑つてたよ。』
長
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