だらうと思はれる。何を教へて居るのか、自分にも明瞭《はつきり》解らぬ。解らぬが、然し何物かを教へて居る。朝起きるから夜枕につくまで、一生懸命になツて其何物かを教へて居る。」と書いてあツたね。それだ、それだ。完《まつ》たくそれだ、其何物かだよ。』
『噫、君、僕は怎《どう》も様々思出されるよ。……だが、何だらうね、僕の居たのは田舎だツたから多少我儘も通せたやうなものの、恁《かう》いふ都会めいた場所《ところ》では、矢張駄目だらうね。僕の一睨みですくんで了ふやうな校長も居まいからね。』
『駄目だ、実際駄目だよ。だから僕の所謂《いはゆる》改造なんていふ漸進主義は、まだるツこく効果《ききめ》が無いのかも知れんね。僕も時々|然《さう》思ふ事があるよ。「明朝午前八時を期し、予は一切の責任を負ふ決心にてストライキを断行す。」といふ君の葉書を読んだ時は、僕は君、躍り上ツたね。改造なんて駄目だ。破壊に限る。破壊した跡の焼野には、君、必ず新しい勢ひの可《い》い草が生えるよ。僕はね。宛然《まるで》自分が革命でも起した様な気で、大威張で局へ行ツて、「サカンニヤレ」といふ那《あ》の電報を打ツたんだ。』
肇さんは俯
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