も人の話を茶にする。』と忠志君は苦《にが》り切つた。『君は何時でも其調子だし、怎《どう》せ僕とは全然《まるつきり》性が合はないんだ。幾何《いくら》云つたつて無駄な事は解つてるんだが、伯母さんの……………………君の御母さんの事を思へばこそ、不要事《いらないこと》も云へば、不要《いらない》心配もするといふもんだ。母も云つたが、實際君と僕程性の違つたものは、マア滅多に無いね。』
『性が合はんでも、僕は君の從兄弟《いとこ》だよ。』
『だからさ、僕の從兄弟に君の樣な人があるとは、實に不思議だね。』
『僕は君よりズート以前からさう思つて居た。』
『實際不思議だよ。…………………』
『天下の奇蹟だね。』と嘴《くちばし》を容れて、古洋服の楠野君は横になつた。横になつて、砂についた片肱《かたひぢ》の、掌《たなごゝろ》の上に頭を載せて、寄せくる浪の穗頭を、ズット斜に見渡すと、其起伏の樣が又一段と面白い。頭を出したり隱したり、活動寫眞で見る舞踏《ダンス》の歩調《あしどり》の樣に追ひ越されたり、追越したり、段々近づいて來て、今にも我が身を洗ふかと思へば、牛の背に似た碧の小山の頂《いただき》が、ツイと一列《ひと
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