……………………今迄だつて一日も安心さした事つて無いんだ。君にや唯一人の御母さんぢやないか、此以後《このあと》一體|怎《どう》する積りなんだい。昨宵《ゆうべ》もね、母が僕に然《さう》云ふんだ。君が楠野さん所へ行つた後にだね、「肇さんももう廿三と云へや子供でもあるまいに姉さんが什※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]《どんな》に心配してるんだか、眞實《ほんたう》に困つちまふ」つてね。實際困つちまふんだ。君自身ぢや痛快だつたつて云ふが、然し、免職になる樣な事を仕出《しで》かす者にや、まあ誰だつて同情せんよ。それで此方へ來るにしてもだ。何とか先に手紙でも來れや、職業《くち》の方だつて見付けるに都合が可《いゝ》んだ。昨日は實際僕|喫驚《びつくり》したぜ。何にも知らずに會社から歸つて見ると後藤の肇さんが來てるといふ。何しにつて聞くと、何しに來たのか解らないが、奧で晝寢をしてるつて、妹が君、眼を丸くして居たぜ。』
『彼※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]《あんな》大きな眼を丸くしたら、顏一杯だつたらう。』
『君は何時
前へ 次へ
全32ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
石川 啄木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング