ャ交ぜになつて、胸の中が宛然《さながら》、火事と洪水と一緒になッた樣だ。……………僕は一晩泣いたよ、枕にして居た帆綱の束に噛りついて泣いたよ。』
『※[#「口+云」、第3水準1−14−87]《うん》』
『海の水は黒かツた。』
『黒かつたか。噫。黒かつたか。』と謂ツて、楠野君は大きい涙を砂に落した。『それや不可《いかん》。止せ、後藤君。自殺は弱い奴等のする事《こツ》た。……死ぬまで行《や》れ。否《いや》、殺されるまでだ。……』
『だから僕は生きてるぢやないか。』
『※[#「口+云」、第3水準1−14−87]《うん》』
『死ぬのは不可《いかん》が、泣くだけなら可《いゝ》だらう。』
『僕も泣くよ。』
『涙の味は苦《にが》いね。』
『※[#「口+云」、第3水準1−14−87]《うん》』
『實に苦いね。』
『※[#「口+云」、第3水準1−14−87]』
『戀の涙は甘いだらうか。』
『※[#「口+云」、第3水準1−14−87]』
『世の中にや、味の無い涙もあるよ。屹度あるよ。』
三
『君の顏を見ると、怎《どう》したもんだか僕あ氣が沈む。奇妙なもんだね。敵の眞中に居れあ元氣がよくて味
前へ
次へ
全32ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
石川 啄木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング