、まだるツこくて效果《きゝめ》が無いのかも知れんね。僕も時々然思ふ事があるよ。「明朝午前八時を期し、予は一切の責任を負ふ決心にてストライキを斷行す。」といふ君の葉書を讀んだ時は、僕は君、躍り上ツたね。改造なんて駄目だ。破壞に限る。破壞した跡の燒野には、君、必ず新しい勢の可《い》い草が生えるよ。僕はね。宛然《まるで》自分が革命でも起した樣な氣で、大威張で局へ行ツて、「サカンニヤレ」といふ那《あ》の電報を打ツたんだ。』
肇さんは俯向いて居て、暫し默して居たが、
『ストライキか、アハヽヽヽ。』と突然大きな聲を出して笑つた。大きな聲ではあつたが、然し何處か淋しい聲であつた。
『昨夜君が歸ツてから、僕は怎《どう》しても眠れなかツた。』
と楠野君の聲は沈む。『一體村民の中に、一人でも君の心を解してる奴があツたのかい。』『不思議にも唯一人、君に話した役場の老助役よ。』
『血あり涙あるを口癖にいふ老壯士か。』
『然《さう》だ。僕が四月の初めに辭表を出した時、村教育の前途を奈何《いかん》と謂ツて、涙を揮ツて留めたのも彼。それならばといツて僕の提出した條件に、先づ第一に賛成したのも彼。其條件が遂に行はれ
前へ
次へ
全32ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
石川 啄木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング