ど》の顏を見ても、鹿爪らしい、横平な、圓みのない、陰氣で俗惡な、疲れた樣な、謂はゞ教員臭い顏ばかりなんぢやないか。奴等の顏を見ると、僕は恁《か》う妙に反抗心が昂《たか》まツて來て、見るもの聞くもの、何でも皆頭から茶化して見たい樣な氣持になるんだ。』
『茶化す?』
『※[#「口+云」、第3水準1−14−87]《うん》、眞面目になつて怒鳴る元氣も出ないやね。だから思ふ存分茶化してやるんだ。殊に君、女教員と來ちや全然箸にも棒にもかゝツたもんぢやない。犬だか猫だか、雀だか烏だか、……兎も角彼らが既に女でないだけは事實だね。女でなくなツたんだから、人間でもないんだ。謂はゞ一種の厭ふべき變性動物に過ぎんのだね。……それで生徒は怎《どう》かといふに、情無いもんだよ君、白い蓮華の蕾の樣な筈の、十四十五という少女《こども》でさへ、早く世の中の風に染ツて、自己を僞ることを何とも思はん樣になツて居る。僕は時々泣きたくなツたね。』
『※[#「口+云」、第3水準1−14−87]《うん》、解る、解る。』
『然し、何だよ、君が故郷で教鞭を採る樣になつてからの手紙には、僕は非常に勵まされた事がある。嘗ては自らナポレオ
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