、狹くて、全然《まるつきり》身動きがならん。蚤《のみ》だつて君、自由に跳《は》ねられやせんのだ。一寸何分と長《たけ》の定《きま》つた奴許りが、ギッシリとつめ込んである。僕の樣なもんでも今迄何囘反逆を企てたか解らん。反逆といツても、君の樣に痛快な事は自分一人ぢや出來んので詰り潔く身を退く位のものだがね。ところが、これでも多少は生徒間に信用もあるので、僕が去ると生徒まで動きやしないかといふ心配があるんだ。そこが私立學校の弱點《よわみ》なんだね。だから怎《どう》しても僕の要求を聽いてくれん。樣々な事をいつて留めるんだ。留められて見ると妙なもんで、遂また留まツて行《や》ツて見ようといふ樣な氣にもなる。と謂つた譯でグズ/\此三年を過したんだが、考へて見れや其間に自分のした事は一つもない。初めは、新聞記者上りといふので特別の注目をひいたもんだが、今ぢやそれすら忘られて了ツた。平凡と俗惡の中に居て、人から注意を享けぬとなツては、もう駄目だね。朝に下宿を出る時は希望もあり、勇氣もある。然しそれも職員室の扉《どあ》を開《あ》けるまでの事だ。一度其中へ這入つたら何ともいへぬ不快が忽ちにこみ上げて來る。何《
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