が然《さう》言つてましたから、先刻話した校長の所へ、これから※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つて見ようかと思ふんです。尤も恁《かう》いふ都會では、女なら隨分資格の無い者も用《つか》ツてる樣だけれど、男の代用教員なんか可成《なるべく》採用しない方針らしいですから、果して肇さんが其方へ入るに可《いゝ》か怎《どう》か、そら解りませんがね。然し大抵なら那《あ》の校長は此方《こツち》のいふ通りに都合してくれますよ。謂ツちや變だけれど、僕の親父《おやぢ》とは金錢上の關係もあるもんですからね。』
『あゝ然ですか。何れ宜敷《よろしく》御盡力下さい。後藤君が此函館に來たについちや、何しろ僕等先住者が充分盡すべき義務があるんですからね。』
『…………まあ然です。兎に角僕は失敬します。肇さんも晝飯までには歸つて來て呉れ給へ。ぢや失敬。』
 忠志君は急歩《いそぎあし》に砂を踏んで、磯傳ひに右へ辿つて行く。殘つた二人は默つて其後姿を見て居る。忠志君は段々遠くなつて、目を細うくして見ると、焦茶のインバネスが薄鼠の中折を被つて立ツて居る樣に見える。
『あれが僕の從兄なんだよ、君。』と肇さんが謂ふ。
『頭が
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