月二十五日の夜が例の大火、予の仮寓は危いところで類焼の厄を免がれたものの、結果は同じ事で、其為に函館では喰へぬ事になつて、九月十三日に焼跡を見捨てて翌日札幌に着いた。
◎札幌には新聞が三つ。第一は北海タイムス[#「北海タイムス」に白丸傍点]、第二は北門新報[#「北門新報」に白丸傍点]、第三は野口君の居られた北鳴新聞[#「北鳴新聞」に白丸傍点]。発行部数は、タイムス[#「タイムス」に白丸傍点]は一万以上、北門[#「北門」に白丸傍点]は六千、北鳴[#「北鳴」に白丸傍点]は八九百(?)といふ噂であつたが、予は北門[#「北門」に白丸傍点]の校正子として住込んだのだ。当時野口君の新聞は休刊中であつた。(此新聞は其儘休刊が続いて、十二月になつて北海道新聞[#「北海道新聞」に白丸傍点]と改題して出たが、間もなく復《また》休刊。今は出てるか怎《ど》うか知らぬ。)
◎予を北門[#「北門」に白丸傍点]に世話してくれたのは、同社の硬派記者|小国《をぐに》露堂《ろだう》といふ予と同県の人、今は釧路新聞の編輯長をしてゐる。此人が予の入社した五日目に来て、「今度小樽に新らしい新聞が出来る。其方《そつち》へ行く気は
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