《あじは》ふ。
夜おそく何処《どこ》やらの室《へや》の騒がしきは
人や死にたらむと、
息をひそむる。
脉《みやく》をとる看護婦の手の、
あたたかき日あり、
つめたく堅《かた》き日もあり。
病院に入《い》りて初めての夜《よ》といふに、
すぐ寝入りしが、
物足らぬかな。
何《なに》となく自分をえらい人のやうに
思ひてゐたりき。
子供なりしかな。
ふくれたる腹を撫《な》でつつ、
病院の寝台《ねだい》に、ひとり、
かなしみてあり。
目さませば、からだ痛くて
動かれず。
泣きたくなりて、夜明くるを待つ。
びっしょりと寝汗《ねあせ》出《で》てゐる
あけがたの
まだ覚《さ》めやらぬ重きかなしみ。
ぼんやりとした悲しみが、
夜《よ》となれば、
寝台《ねだい》の上にそっと来て乗る。
病院の窓によりつつ、
いろいろの人の
元気に歩くを眺《なが》む。
もうお前《まへ》の心底《しんてい》をよく見届《みとど》けたと、
夢に母来て
泣いてゆきしかな。
思ふこと盗みきかるる如《ごと》くにて、
つと胸を引きぬ――
聴診器《ちやうしんき》より。
看護婦の徹夜するまで、
わが病《やま》ひ、
わる
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