叱《しか》りて眠る。

過ぎゆける一年のつかれ出《で》しものか、
元日といふに
うとうと眠し。

それとなく
その由《よ》るところ悲しまる、
元日の午後の眠《ねむ》たき心。

ぢっとして、
蜜柑《みかん》のつゆに染まりたる爪《つめ》を見つむる
心もとなさ!

手を打ちて
眠気《ねむけ》の返事きくまでの
そのもどかしさに似たるもどかしさ!

やみがたき用を忘れ来《き》ぬ――
途中にて口に入れたる
ゼムのためなりし。

すっぽりと蒲団《ふとん》をかぶり、
足をちぢめ、
舌を出してみぬ、誰《たれ》にともなしに。

いつしかに正月も過ぎて、
わが生活《くらし》が
またもとの道にはまり来《きた》れり。

神様と議論して泣きし――
あの夢よ!
四日《か》ばかりも前の朝なりし。

家《いへ》にかへる時間となるを、
ただ一つの待つことにして、
今日も働けり。

いろいろの人の思はく
はかりかねて、
今日もおとなしく暮らしたるかな。

おれが若《も》しこの新聞の主筆《しゆひつ》ならば、
やらむ――と思ひし
いろいろの事!

石狩《いしかり》の空知郡《そらちごほり》の
牧場のお嫁《よめ》さんより送り来《
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