き》し
バタかな。
外套《ぐわいたう》の襟《えり》に頤《あご》を埋《うづ》め、
夜ふけに立どまりて聞く。
よく似た声かな。
Yといふ符牒《ふてふ》、
古日記《ふるにつき》の処処《しよしよ》にあり――
Yとはあの人の事なりしかな。
百姓の多くは酒をやめしといふ。
もっと困《こま》らば、
何をやめるらむ。
目さまして直《す》ぐの心よ!
年よりの家出の記事にも
涙出《い》でたり。
人とともに事をはかるに
適《てき》せざる、
わが性格を思ふ寝覚《ねざめ》かな。
何《なに》となく、
案外《あんがい》に多き気もせらる、
自分と同じこと思ふ人。
自分よりも年若き人に、
半日も気焔《きえん》を吐《は》きて、
つかれし心!
珍《めづ》らしく、今日は、
議会を罵《ののし》りつつ涙出《い》でたり。
うれしと思ふ。
ひと晩に咲かせてみむと、
梅の鉢《はち》を火に焙《あぶ》りしが、
咲かざりしかな。
あやまちて茶碗をこはし、
物をこはす気持のよさを、
今朝《けさ》も思へる。
猫の耳を引っぱりてみて、
にゃと啼《な》けば、
びっくりして喜ぶ子供の顔かな。
何故《なぜ》かうかとなさけなくなり
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