《ほう》の腿《もも》のかろきしびれを。
曠野《あらの》ゆく汽車のごとくに、
このなやみ、
ときどき我の心を通る。
みすぼらしき郷里《くに》の新聞ひろげつつ、
誤植《ごしよく》ひろへり。
今朝のかなしみ。
誰《たれ》か我を
思ふ存分《ぞんぶん》叱《しか》りつくる人あれと思ふ。
何《なん》の心ぞ。
何がなく
初恋人《はつこひびと》のおくつきに詣《まう》づるごとし。
郊外に来ぬ。
なつかしき
故郷にかへる思ひあり、
久し振《ぶ》りにて汽車に乗りしに。
新しき明日《あす》の来《きた》るを信ずといふ
自分の言葉に
嘘《うそ》はなけれど――
考へれば、
ほんとに欲《ほ》しと思ふこと有るやうで無し。
煙管《きせる》をみがく。
今日ひょいと山が恋しくて
山に来《き》ぬ。
去年腰掛《こしか》けし石をさがすかな。
朝寝して新聞読む間《ま》なかりしを
負債《ふさい》のごとく
今日も感ずる。
よごれたる手をみる――
ちゃうど
この頃の自分の心に対《むか》ふがごとし。
よごれたる手を洗ひし時の
かすかなる満足が
今日の満足なりき。
年明けてゆるめる心!
うっとりと
来《こ》し方《かた》を
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