ごと》にさびしきは何《な》ぞ。
まくら辺《べ》に子を坐らせて、
まじまじとその顔を見れば、
逃げてゆきしかな。
いつも子を
うるさきものに思ひゐし間《あひだ》に、
その子、五歳《さい》になれり。
その親にも、
親の親にも似るなかれ――
かく汝《な》が父は思へるぞ、子よ。
かなしきは、
(われもしかりき)
叱《しか》れども、打てども泣かぬ児の心なる。
「労働者」「革命」などといふ言葉を
聞きおぼえたる
五歳の子かな。
時として、
あらん限りの声を出し、
唱歌をうたふ子をほめてみる。
何思ひけむ――
玩具《おもちや》をすてておとなしく、
わが側《そば》に来て子の坐りたる。
お菓子貰ふ時も忘れて、
二階より、
町の往来《ゆきき》を眺むる子かな。
新しきインクの匂《にほ》ひ、
目に沁《し》むもかなしや。
いつか庭の青めり。
ひとところ、畳《たたみ》を見つめてありし間《ま》の
その思ひを、
妻よ、語れといふか。
あの年のゆく春のころ、
眼をやみてかけし黒眼鏡《くろめがね》――
こはしやしにけむ。
薬のむことを忘れて、
ひさしぶりに、
母に叱られし
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