たら可いだらう。』と言ふ許可《おゆるし》が出て、奥様から燐寸を渡された時、お定は甚※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]《どんな》に嬉しかつたか知れぬ。
言はれた通りに四畳へ行くと、お定は先づ両脚を延ばして、膝頭を軽く拳《こぶし》で叩いて見た。一方に障子二枚の明りとり、昼はさぞ薄暗い事であらう。窓と反対の、奥の方の押入を開けると、蒲団もあれば枕もある。妙な臭気が鼻を打つた。
お定は其処に膝をついて、開けた襖《からかみ》に片手をかけた儘一時間許りも身動きをしなかつた。先づ明日の朝自分の為ねばならぬ事を胸に数へたが、お八重さんが今頃怎してる事かと、友の身が思はれる。郷里《くに》を出て以来、片時も離れなかつた友と別れて、源助にもお吉にも離れて、ああ、自分は今初めて一人になつたと思ふと、穏しい娘心はもう涙ぐまれる。東京の女中! 郷里《くに》で考へた時は何ともいへぬ華やかな楽しいものであつたに、……然《さ》ういへば自分はまだ手紙も一本郷里へ出さぬ。と思ふと、両親の顔や弟共の声、馬の事、友達の事、草刈の事、水汲の事、生れ故郷が詳《つまび》らかに思出されて
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