お吉に伴れられて、朝八時頃から見物に出た。
先づ赤門、『恁※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]《こんたな》学校にも教師《せんせ》ア居《え》べすか?』とお定は囁やいたが、『居《え》るのす。』と答へたお八重はツンと済してゐた。不忍の池では海の様だと思つた。お定の村には山と川と田と畑としか無かつたので。さて上野の森、話に聞いた銅像よりも、木立の中の大仏の方が立派に見えた。電車といふものに初めて乗せられて、浅草は人の塵溜《ちりため》、玉乗に汗を握り、水族館の地下室では、源助の話を思出して帯の間の財布《かみいれ》を上から抑へた。人の数が掏摸《すり》に見える。凌雲閣には余り高いのに怖気《おぢけ》立つて、遂々《たうたう》上らず。吾妻橋に出ては、東京では川まで大きいと思つた。両国の川開きの話をお吉に聞かされたが、甚※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]《どんな》事をするものやら遂に解らず了ひ。上潮に末広の長い尾を曳く川蒸汽は、仲々異なものであつた。銀座の通り、新橋のステイシヨン、勧工場《くわんこうば》にも幾度《いくたび
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