ると、一町半の寺道、其半ば位まで行つた時には、野送の人が男許り、然も皆洋服を着たり紋付を着たりして、立派な帽子を冠つた髯の生えた人達許りで、其中に自分だけが腕車の上に縛られてゆくのであつたが、甚※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]《どんな》人が其腕車を曳いたのか解らぬ。杉の木の下を通つて、寺の庭で三遍廻つて、本堂に入ると、棺桶の中から何ともいへぬ綺麗な服装をした、美しいお姫様の様な人が出て中央に坐つた。自分も男達と共に坐ると、『お前は女だから。』と言つて、ずつと前の方へ出された。見た事もない小僧達が奥の方から沢山出て来て、鐃《かね》や太鼓を鳴らし初めた。それは喇叭節の節であつた。と、例《いつも》の和尚様が払子《ほつす》を持つて出て来て、綺麗なお姫様の前へ行つて叩頭《おじぎ》をしたと思ふと、自分の方へ歩いて来た。高い足駄を穿いてゐる。そして自分の前に突立つて、『お八重、お前はあのお姫様の代りにお墓に入るのだぞ。』と言つた。すると何時の間にか源助さんが側《かたはら》に来てゐて、自分の耳に口をあてて『厭だと言へ、厭だと言へ。』と教へて呉れた。で、『厭
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