『それでなす、先方《あつち》ア着いてから、一緒に行つた様でなく、後から追駆けて来たで、当分東京さ置ぐからつて手紙寄越す筈にしたものす。』
『あの人《しと》だばさ。真《ほんと》に世話して呉《け》える人《しと》にや人《しと》だども。』
此時、懐手してぶらりと裏口から出て来た源助の姿が、小屋の入口から見えたので、お八重は手招ぎしてそれを呼び入れた。源助はニタリ/\相好を崩して笑ひ乍ら、入口に立ち塞《はだか》つたが、
『まだ、日が暮れねえのに情夫《をとこ》の話ぢや、天井の鼠が笑ひますぜ。』
お八重は手を挙げて其高声を制した。『あの、源助さん、今朝の話ア真実《ほんと》でごあんすよ。』源助は一寸真面目な顔をしたが、また直ぐに笑ひを含んで、『※[#「口+云」、第3水準1−14−87]《うん》、好《よ》し/\、此|老爺《おぢい》さんが引受けたら間違ツこはねえが、何だな、お定さんも謀叛の一味に加はつたな?』
『謀叛だど、まあ!』とお定は目を大きくした。
『だがねえお八重さん、お定さんもだ、まあ熟《よつ》く考へて見る事《こつ》たね。俺は奈何《どう》でも構はねえが、彼方へ行つてから後悔でもする様ぢや、貴
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