草の観音様に鳩がゐると聞いた時、お定は其※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]《そんな》所にも鳥なぞがゐるか知らと、異様に感じた。そして、其※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]所から此人はまあ、怎《どう》して此処まで来たのだらうと、源助さんの得意気な顔を打瞶《うちまも》つたのだ。それから源助さんは、東京は男にや職業が一寸|見付《みつか》り悪《にく》いけれど、女なら幾何《いくら》でも口がある。女中奉公しても月に賄《まかなひ》付で四円貰へるから、お定さんも一二年行つて見ないかと言つたが、お定は唯|俯《うつむ》いて微笑《ほほゑ》んだのみであつた。怎して私などが東京へ行かれよう、と胸の中で呟やいたのである。そして、今日|隣家《となり》の松太郎と云ふ若者《わかいもの》が、源助さんと一緒に東京に行きたいと言つた事を思出して、男ならばだけれども、と考へてゐた。
三
翌日《あくるひ》は、例《いつも》の様に水を汲んで来てから、朝草刈に行かうとしてると、秋の雨がしと/\降り出して来た。廐には未だ二日分許り秣《
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